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めいじのランプ

明治のランプ

宮本 百合子

「政界往来」1939(昭和14)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,154 字 · 5 页

青空文庫

「どっちだ」と数人の村人が土を蹴立てて駆けつけて来た。火元はどっちだと消しに集ったので、明治初年の東北の深い夜の闇を一台のランプは只事ならぬ明るさで煌々と輝きわたった次第であった。得意の繭紬の蝙蝠傘も曾祖母はバテレンくさいと評した由。

北海道開発に志を遂げなかった政恒は、福島県の役人になってから、猪苗代湖に疏水事業をおこし、安積郡の一部の荒野を灌漑して水田耕作を可能にする計画を立て、地方の有志にも計ってそれを実行にうつした。複雑な政党関係などがあって、祖父が一向きな心で開墾を思っているように単純にことが運ばず、事業そのものは遂げられたが、祖父の心には或る鬱屈するものがあったらしい。晩年起居を不自由にする原因となった暴飲がこの間に始ったそうである。もともと政恒は薄茶がすきで、もんぺいの膝を折っては一日に何度か妻に薄茶をたてさせた。すると、或るとき曾祖母が、一服終った政恒に向って、お前は本当に開墾事業をなしとげる覚悟か、と訊ねた。政恒にとってこれは心外な問いであったろう。もとよりと答えると、曾祖母は私にはそうは見えぬ、と云ったそうだ。一日に何度も薄茶なんか立てさせて飲む性根で、土方の仕事のしめくくりがつくと思うかと云った。