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めいじのせんそうぶんがく

明治の戦争文学

黒島 伝治

「明治文学講座 第四巻」木星社、1932(昭和7)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,887 字 · 24 页

青空文庫

しかし折角、兵卒に着目しながら、花袋は、生と死を重視する生物としての人間をそこに見て、背後の社会関係や、その矛盾の反映し凝集した兵卒は見つけ出さなかった。また、見つけようともしなかった。そこに、自然主義者としての花袋の面目もある訳だが、それだけに、戦場の戦闘開始前に於ける兵士や部隊の動きや、満洲の高粱のある曠野が、空想でない、しっかりした真実味に富んだ線の太い筆で描かれていながら、一つの戦地の断片に終って、全体としての戦争は浮びあがらない。自然主義文学に共通の特色をなす、全体的なことを書きながらも、その中の個の追求が、こゝでも主眼となっている。幾分、地主的匂いがたゞよっている。

一兵卒の死の原因にしても、長途の行軍から持病の脚気が昂進したという程度で、それ以上、その原因を深く追求しないで、主人公の恐ろしい苦しみをかきながら、作者は、ある諦めとか運命とかいうものを見つけ出そうとしている。脚気は戦地病であるが、一兵卒の死だって、もっとその原因を深く追求すれば、憤慨に値することに突きあたらざるを得ないのである。

けれども「一兵卒」は、明治以来の日本の文学に、初めて真面目に戦争に取材した小説を提供したものとして、歴史的にまず指を屈しなければならない。