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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

08 その七 石の下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页

青空文庫

「東太の膝の横手です」

「兄さんの前ではありませんか」

「いいえ。そこは兄の前にも当りますけど、兄は一膝ぶんぐらいひッこんでおりましたから、東太の膝にすぐ近く、兄の膝からは二尺ちかい距離は離れておりましたろう。特に気をつけてそこへ置きました」

「なぜ特に気をつけたのですか」

「二十年前を再現すること、したがって、兄のためではなく、東太が亡父の身代りですから」

「二十年前には、二人はお茶をのんだでしょうか」

「覚えがありません」

「東太さんはのみましたか」

「いいえ」

「よく覚えていますね」

「居眠りしていて、お茶がそこにあることを知らなかったと思います。ソノがドビンを持って茶をいれ代えにきたとき、東太の茶ワンは手づかずに茶が残っていました」

「そう、そう。ソノもそう申していましたよ。その後はどうでしたでしょう」

「その後のことは記憶しません」

「茶に食塩を入れるのは、いつごろからの習慣ですか」

「私が当家に嫁しましたとき、すでに当家の習慣でした」

「甚八はお茶を一息にのみほしたそうですが、あなたは見ましたか」

「見たような気もしますが、そうでないような気もします」

「あなたは、いま、何が一番気がかりですか」