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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

渡瀬は計算用の原稿紙を一まとめにして懐ろにしまいこみながら、馬鈴薯から安価な焼酎と、そのころ恐ろしく高価なウ※スキーとが造りだされる化学上の手続を素人わかりがするように話して聞かせた。新井田氏の顔はだんだん和らいできた。投機者には通有らしい、めまぐるしく動く大きな眼――それはもう一歩というところで詐欺師のそれと一致するものだが――の眼尻に、この人に意外な愛嬌を添える小皺ができはじめた。それは自分の意見に他人を牽き寄せようとする時には、いつでも自然に現われてくるのだった。人相見にでもいわせたら、これはこの人が天から授かった徳相だとでもいうのだろう。

研究室はまったく寒い部屋だった。渡瀬は計算に夢中でいる間は少しも気がつかなかったが、これでは新井田氏が不平をこぼしたのもむりがないと思った。火鉢一つでは、こんな天井の高い家ではもう凌げる時節ではない。それに宵もだいぶふけたらしかった。おまけに酒の酔いもさめぎわになっていた。

玄関に来て帰りの挨拶をしかけると、新井田氏がきゅうに思いついたように、ちょっと待ってくれといってそそくさと奥にはいっていった。渡瀬はやむを得ずそこに突立って自分の下駄と新井田氏が脱ぎ捨てた履物とを較べなどしていた。