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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

子供だなあ」

月末にはまだ三日もある今夜報酬をくれるというのもそれで読めた。ところで俺の方からいうと、報酬を貰った以上、今月はもう来ないというのは予定の行動だ。

「ええ差支えありません。来ますとも」

「どうぞいらしってちょうだいね」

奥さんが……主人の加勢をするように主人には聞こえ、渡瀬を誘惑するように渡瀬には聞こえるそんな調子で。

「何しろ新井田は果報者だて」

渡瀬は往来に出て、寒い空気に触れるにつけて、暖かそうな奥さんの笑顔と肉体とを実感的に想像して、こう心の中で呟いた。けれども同時に、彼の懐ろの内も暖いのを彼は拒むことができなかった。あれだけをおっかあに渡して、あれだけを卯三公にやって、あれだけであの本を買って……と、残るぞ。二晩は遊べるな。……と、待てよ。きゅうにさっきまで考えつめていた計算のことが頭に浮んだ。ふむ……待てよ。渡瀬はたちまちすべてを忘れてしまった。数字の連なりが眼の前で躍りはじめた。渡瀬はしたり顔に一度首をかしげると、堅く腕を胸高に組合せて霜の花でもちらちら飛び交わしているかと冴えた寒空の下を、深く考えこみながら、南に向いてこつりこつりと歩いていった。