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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

清逸は一種の親しみを純次に感じて、

「もうよくなった。さあ帰ろう。お前は仕事が終えるとずいぶん疲れるだろうな」

といってやった。

「あたりまえよ」

純次の答えはこうだった。そして河岸まで行って、清逸の背中を撫でていた両手をごしごしと洗った。清逸は同情なしにではなく、じっと淋しくそれを見やった。

弟が泥靴のままでぬかるみの中をかまわず歩いてゆく間に、清逸は下駄をいたわりながら、遅れがちに続いた。たそがれというべき暗らさになって、行く手には清逸の家の灯だけが、枯れた木叢の間にたった一つ見やられた。純次は時々立ち停っては、もどかしそうに兄の方を顧みた。先に帰れと清逸がいってもそうはしなかった。

「兄さん、お前はまた札幌に帰るのか」

とある所で純次は兄を待ちながら突然にいった。清逸はそうだと答えた。

「死んでしまうぞ。帰らねえがいい」

それがいつか、母に向って、「肺病はうつるもんだよ」といった弟の言葉だった。純次はどうせ辻褄の合わないことをいう低能者ではあった。しかし今の言葉に清逸は、低能でない何人からも求められない純粋な親切を感ぜずにはいられなかった。

純次は兄の近づくのを待ってまたこういった。