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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

廊下に出ると動物学の方の野村教授が、外套の衣嚢の辺で癖のように両手を拭きながら自分の研究室から出てくるのに遇った。教授は不似合な山高帽子を丁寧に取って、煤けきったような鈍重な眼を強度の近眼鏡の後ろから覗かせながら、含羞むように、

「ライプチッヒから本が少しとどきましたから何んなら見にいらっしゃい」

と挨拶して、指の股を思い存分はだけた両手で外套をこすり続けながら忙しそうに行ってしまった。何んのこだわりもなく研究に没頭しきっているような後姿を見送りながら、園は何んとなく恥を覚えた。それは教授に向けられたのか、自分に向けられたのか、はっきりしないような曖昧なものであったが。

時計台のちょうど下にあたる処にしつらえられた玄関を出た。そこの石畳は一つ一つが踏みへらされて古い砥石のように彎曲していた。時計のすぐ下には東北御巡遊の節、岩倉具視が書いたという木の額が古ぼけたままかかっているのだ。「演武場」と書いてある。

芝生代りに校庭に植えられた牧草は、三番刈りの前でかなりの丈けにはなっているが、一番刈りのとはちがって、茎が細々と痩せて、おりからのささやかな風にも揉まれるように靡いていた。