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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
伏姫にかしずく八房のようでもあった。ああ俺はまったくあの畜生だな。まったく涙がほろりと流れてきた。何んだかばかばかしいと彼は思った。
新井田氏の玄関によろけこむと、渡瀬は拳固で涙と鼻水とをめちゃくちゃに押しぬぐいながら、
「奥さあん」
と大声を立てて、式台にどっかと尻餅をついた。
奥さんはすぐドアを開けて駈けだしてきた。
「あら大変。あなた、戸も締めないで雪が吹きこむじゃないの」
といいながら、そこにあった下駄を片方の足だけにはいて、斜に身を延ばして、玄関の戸を締めた。股をはだけた奥さんの腰から下が渡瀬のすぐ眼の前にちらついた。
「無礼者……とは、かく申す拙者のことですよ……酔っている? 酔っているかと問われれば、酔っています。……ガンベの酔ったのを見たことがありますか……現在ははは……現在を除いてさ……」
奥さんのしなやかな手が、渡瀬の肩の雪を軽く払っていた。
「いた、……いた、……痛いですよ、奥さん」
「あなた今日は本当にどうかしているわね……さあお上りなさいな」
渡瀬は奥さんの手のさわったところをさすりながら、情けなくなって、そのあでやかな、そのくせ性というものばかりででき上っているような顔を見上げた。