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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

始めて小樽に連れだされたのは十七だった。まるで山の中から拾ってきた猿のようなあしらいを受けた。箸の上げおろしにも笑いさいなまれ、枕につくたびごとに、家恋しさと口惜しさのために忍び泣きで通した半年ほど。貰った給金は残らず家の方に仕送って家からたまに届けてよこす衣類といっては、とても小樽では着られないものばかりなので、奥さんからは皮肉な眼を向けられ、朋輩からは蔭口をたたかれる。それをじっと堪らえて、はいはいといっていなければならぬ辛らさ。月日は経ったけれども、小学校で少しばかり習い覚えた文字すら忘れがちになるのに、そこのお嬢さんたちが裕かに勉強して、一日一日と物識りになり、美しくなっていくのを、黙って見ていなければならぬ恨めしさ。七時過ぎまでは食事もできないで、晩食後の片づけに小皿一つ粗をしまいと血眼になっている時、奥では一家の人たちが何んの苦労もなく寄り合って、ばか騒ぎと思われるほどに笑い興じているのを聞かなければならぬ妬ましさ。それにも増して苦しかったのは奥さんの意地悪だ。妙な癖で、奥さんは家内のものの中にかならず一人は目のかたきになる人を作っておかなければ気がすまないのだ。