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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

自分の気持をそのまま先方に移すことができるだろうか、そういう不安がかすかに動いた。彼はその場になって、かすかにでもそう感ぜねばならぬのが苦しかった。それゆえ彼は已むを得ずますます口少なになった。何もかも一度に二人に言いきってしまった時に感じるだろう心のすがすがしさと、それを曲って取られはしないかという不安とが、もどかしく心の中で戦い合った。

いつものとおりの落ち着いたしとやかさでおぬいさんが茶を入れていた。小母さんは茶を飲み終るまでも、大事な問題は延ばしておこうとでもするように、途中が寒かったろうなどと、世間なみの口をきいていた。園は自分の気持が何んとなく小母さんに通じているのだなと思った。長い生活の経験と、親というものの力が美しく働いているらしいのを感じて、その月並な会話にもけっして不快は感じなかった。

園はおぬいさんが進めてくれた茶を静かにすすった。少しそれは熱すぎた。彼は冷えた両手でほとぼりの沁み残った茶碗を握りしめてみた。そこからも快い感触が神経の奥に暖かく移っていった。ふと眼を挙げるとそこにおぬいさんの眼があった。何んの恐れ気もなく、平和に、純潔な、そして園の心におのずと涙ぐましさを誘うような淋しさ、――淋しさではない。