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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
その代り誰も彼もが、より誰も彼もらしくなった。会話は自然に纏まって本筋に流れこんだ。人見は軽い機智の使いどころがなくなって蔭に廻った。西山の気分はまた前どおりの黙って坐ってはいられないような興奮に帰っていった。
「そうかなあ」
三時下ってから独語のような返事をして、森村は眠そうな薄眼をしながらすましていた。
マラーは彼が宮殿と呼ぶ襤褸籠のような借家の浴室で、湯にひたりながら書きものをしている。その眼の前の壁には、学校で使い古したらしい仏蘭西の大掛図が、皺くちゃのまま貼りつけてある。突然玄関の方で、彼の情婦が、聞き慣れない美しい声を持った婦人と烈しくいい争っているけはいがする。マラーはしばらくの間眉をひそめて聞耳を立てていたが、仰向に浴漕に浸っているままで大声に情婦を呼びたてる。そして聞き慣れない美しい声の持主というのはジロンド党員の陰謀を密告するために、わざわざカンヌから彼を訪れたのだといって、昨日以来面会を求めている年の若い婦人だと知れる。その婦人に対してある好奇心が動く。破格の面会を許す。
もうそこにはマラーはいない。醜い死骸になって、浴槽から半身を乗りだしたまま、その胸は短剣に貫かれて横わっている。