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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
万事につけて彼の気持はそんな風に動いていった。
突然柿江が能弁になった。彼が能弁になるのは一種の発作で、無害な犬が突然恐水病にかかるようなものだ。じくじくと考えている彼の眼がきゅうに輝きだして、湯気を立てんばかりな平べったい脂手が、空を切って眼もとまらぬ手真似の早業を演ずる。そういう時仲間のものは黙ってそれが自然に収まるのを待っているよりほかはない。彼は貧乏ゆすりをしながら園から受取った星野の葉書を手脂だらけにして丸めたり延ばしたりしていた。それを棒のように振り廻わし始めた。
高所大所とはいったい何を意味するつもりだというところから柿江は始めた。高所は札幌の片隅にもある、大所は女郎屋の廻し部屋にもあると叫んだ。よく聞けよく聞けといって彼はだんだん西山の方に乗りだしていった。西山は自分の机に腰をかけたまま受太刀になってあっけに取られてそれを眺めていなければならなかった。
「教授の手にある講義のノートに手垢が溜まるというのは名誉なことじゃない。クラーク、クラークとこの学校の創立者の名を咒文のように称えるのが名誉なことじゃない。当世の学問なるものが畢竟何に役立つかを考えてみないのは名誉なことじゃない。