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はるさきのこぶつてん

春さきの古物店

小川 未明

「赤い鳥」1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,911 字 · 8 页

青空文庫

また、これから世の中へ出て、どんなおもしろいめをしないともかぎりますまいに……。」と、机はよく、乳母車に向かっていったことがあります。

すると、青いペンキのところどころはげ落ちた乳母車は、急に、元気づいた調子になって、

「ほんとうに考えればそうなんですよ。けれど、こうして、じっとしていますと、つい気がめいりまして、しかたがないもんですから……。」と、乳母車は答えました。

「ああ、もうじき春がくるよ。そうすれば、おれたちは、きっとおもしろいことがあるだろう。そう長いことでもあるまい……。」と、張り板が、身柄相応な大きな声を出して、口をいれました。

今日も、乳母車は、日のあたたかそうにあたって、黄色なほこりが、人間の歩くげたのさきから、また荷車のわだちの後から起こるのを見ていましたが、いつしか、いつものごとく訴えるような調子で、

「わたしにも、おもしろいことも、おかしいことも、ありましたっけ。あれはどこだったろう。いい音楽の聞こえてくる坂道を、赤ん坊をのせて登ると、そこには桜の木が幾本もあって、みごとに花が咲いていました。吹いてくる風は、なんともいえず気持ちがよかったし、いつまでもその木の下で遊んでいました。