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はるさきのこぶつてん

春さきの古物店

小川 未明

「赤い鳥」1926(大正15)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,911 字 · 8 页

青空文庫

もう一度あんなところへいってみたいと思います……。」

乳母車は、語るともつかず、ひとりで、こういって、空想にふけっていると、

「乳母車さん、あなたが、昔のことをなつかしがりなさるのも、無理はないが、だれにだって、そうした思い出というようなものはあるものです。しかしそれがどうなるもんでしょうか?」と、机がいいました。

乳母車は、机のいったことは、耳にはいらず、なにかいっしんに沈んだ顔をして考えていました。

このとき、突然にも、壁に寄りかかっている張り板が口を開いたのです。

「机くん、君にも、なにかそんなはなやかな思い出があるのかね。君の姿を見たのでは、どんな虐待を人間から受けてきたかと思われるくらいだ。僕は、また君こそ、過去の苦痛の連続であって、こうしてのんきにしていられるのが、どんなに君にとって幸福のことかしれないと思ったが、やはり、昔が恋しいとみえるのは不思議なくらいだが……。」と、張り板はいったのでした。

机は、感慨深そうな顔つきをして、張り板のいうことに耳を傾けていました。

「そう思われるのは、無理はありません。この体をしていては……。」といいました。