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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
つくづく思う。輿論を訂正するということは、これは並たいていの仕事ではない。私には、利用すべき地位もない、権力もない、お金もない、何も無い。ただ、ペン一本で、こうして考え考えしながら一字、一字、書いて、それを訂正して行こうとしているのだから、心許ない話である。げに、焼き滅ぼすは一瞬、建設は百年、である。私は、たしかに、いけなかったのだ。私は、生きながらの古典人になろうとしていた。なれるものだと思っていた。あさましく不埒である。きょうよりのちは、世評にも充分の注意を払い、聴くべきは大いに容れ、誤れるは、之を正す。
またしても、これは、私生活の上の話ではないか。おまえは、ついさっき、物語のなかに私生活の上の弁解を附加することは邪道であると明言したばかりのところでは無いか。矛盾しないか。矛盾していないのである。そろそろ小説の世界の中にはいって来ているのであるから、読者も、注意が肝要である。
立ち直る、ということは、さっきも言ったように、これは、容易のことではない。何故といって、私が、どろぼうの話をするに当って、これだけの、ことわり文句が必要であったのである。