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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
火事は、精神的なものである。私は、宗教をさえ考える。宿業に依って炎上し、神の意志に依って烏有に帰する。人意にて、左右することの、かなわぬものである。そうして、盗難は、――これは火事と較べて、同じ災禍でありながら、あまり宗教的ではない。宗教的どころか、徹頭徹尾、人為的である。けれども、これにも何か不思議がある。人為の極度にも、何かしら神意が舞い下るような気がしないか。エッフェル鉄塔が夜と昼とでは、約七尺弱、高さに異変を生ずるなど、この類である。鉄は、熱に依って多少の伸縮があるものだけれども、それにしても、約七尺弱とは、伸縮が大袈裟すぎる。そこが、不思議である。神意、ということを考えないわけにいかない。私のこのたびの盗難にしても、たしかに数数の不思議があった。
だいいちには、あの怪しからぬ泥靴の夢を見たことである。実に不愉快な大きな泥靴の夢を見たのである。いまになって考えてみると、あれは夢のお告げ、というものであった。それは、たしかだ。私は、諸君に警報したい。泥靴の夢を見たならば、一週間以内に必ずどろぼうが見舞うものと覚悟をするがいい。私を信じなければ、いけない。