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はるのとうぞく
春の盗賊
「文芸日本」1940(昭和15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,212 字 · 58 页
決して、浮いた、みだらな心からでは無いのだ。財布にあれを入れて置くと、お金がなくならないし、箪笥にあれを入れて置くと、着物に不自由しない、というが、それは、ほんとうなんだ。そこに注意力を集中させるためなんだ。ずいぶん恥ずかしいもんだから、その財布にも、箪笥にも、なるべく手をふれないよう、無闇に開閉しないように、そっと大事に、いたわるようになるのだ。いじらしいじゃないか。ずいぶん、つましい奥ゆかしいことなんだ。君は、それから、子供の財布さえ盗んだことがあるね。たしかに、盗んだ。そうして、君は、泣いたろう。女の子の財布には、その子供自身で針金ねじ曲げてこしらえた指輪なんかがはいっていて、その不手際の、でこぼこした針金の屈曲には、女の子のうんうん唸って、顔を赤くして針金ねじ曲げた子供の柔かいちからが、そのまま、じかに残っていて、彎曲のくぼみくぼみに、その子供の小さい努力が、ほの温くたまっていて、君は、たまらなくなって顔を覆ったろう。平気だったら、君は、鬼だ。また、男の子の財布には、メンコが一そろいはいっている。メンコには、それぞれお角力さんの絵が画かれていて、東の横綱から前頭まで、また西の横綱から前頭まで、東西五枚ずつ、合計十枚、ある筈なんだが、一枚たりない。