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チュンタオ
春桃
宮本 百合子
「近代文学」2、3号、1946(昭和21)年2、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,868 字 · 22 页
劉向高という、同じ年ぐらいの少しは文字のよめる男が、春桃と同棲している。向高は、春桃が一日の稼ぎを終って廂房に戻って来ると、いつも彼女の背をもみ、足をたたいてやった。そして商売の上では、価のある紙質や書類をよりわける。向高は、春桃をどうしても女房や、と呼びたい。そして、実際にそう呼ぶ。けれども春桃はその度毎に、「女房、女房って、そう呼んじゃいけないって云ってるじゃないか、ええ?」と、うけつけないのであった。春桃は、向高と自分とは天地も拝せず三々九度の盃も交さず、ただ故郷の兵火に追われて偶然遁げのびて来た道づれの男女が、とも棲みしているばかりだと主張していた。しきたり通りの婚礼をした春桃の良人は李茂という男だった。やっと婚礼の轎が門に入ったばかりの時、大部隊の兵が部落に乱入して来て、逃げ出した新夫婦は、二日目の夜馬賊に襲撃されて又逃げるとき、遂にちりぢりとなった。その時より四五年経った。彼女の几帳面さと清潔とを見出されて、或る西洋人の阿媽となったが、春桃には、どうしても西洋の体臭に添いかねて、やめてしまった。大きな屑籠を背負い、破れた麦稈帽子に、美しい顔の半分をかくした春桃は、「屑イ、マッチに換えまァす」