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しょうわのじゅうよねんかん

昭和の十四年間

宮本 百合子

「日本文学入門」日本評論社、1940(昭和15)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,356 字 · 69 页

青空文庫

知性の作家と呼ばれた阿部知二がこの時期に発表した「冬の宿」も、この点でいかにも時代的な所産であった。作品の中で人間性の濃度を高めるためにこの作者は意企的に異常性格を持った嘉門とその妻松子、娘息子をとり来って、殆どグロテスクな転落の絵図をくりひろげたが、この作品の世界に対して作者は責任を感じていず、登場している私という中枢の人物は、本質的には作者と共にその転落の過程の報告者としての存在をもつに過ぎない。

山本有三の「真実一路」もやはり真摯に生きてゆく意図は自覚されながらその具体的な見透しとしての方向や方法がはっきりしないで、目前の事象と必要との中に一生懸命な自分を打込むという姿で主題は途切らされている作品である。人生的な態度をもった作家として五、六年前には「女の一生」をおくり出すことが出来たこの人が、当時の「真実一路」に於ては、真実が主人公の素朴な主観の内にだけ感じられるものとしてしか描き出せなかったということは、やはり当時の社会的雰囲気と謂うところのヒューマニズムの無力とを語っていると思われる。

ごくあらましな以上の観察によっても昭和十年、十一年頃に於ける文学が面していた矛盾困難と混乱の有様は十分理解することが出来る。