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しょうわのじゅうよねんかん

昭和の十四年間

宮本 百合子

「日本文学入門」日本評論社、1940(昭和15)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,356 字 · 69 页

青空文庫

川端康成が、女子供の文章の真実を、その素朴な偽なさの故に評価しようとしたことも、大局からみればやはり文学の夥しい自己喪失を意味するものであったと思う。

このような文学に於ける社会的見地の抹殺と客観的な評価の消滅が充ちていたとき、最低限の形ででも民衆の日常の現実を文学の対象として描こうとした努力から中野重治「汽車の罐焚き」や徳永直の「八年制」などが書かれた。

この年七月蘆溝橋に轟いた銃声は日本の社会の相貌を急変させたと同時に、その年の秋には報告文学の問題が中心に立ち現れて来た。海を渡って早速何人かの作家が現地視察に赴き、その報告の文章が各雑誌に競って載せられた。社会事情の変化と共に大陸を背景として行われている歴史的な行動における人間の記録は、人間の精神と肉体との白熱的な報告として行き詰った文学の世界に新生を与えるであろうという希望もかけられたのであった。

ところが、この希望も単純に満たされることは出来なかった。何故ならば、既に自身の文学の対象として真に生ける現実と人間とを捉えることをやめていた作家たちが、あらゆる意味で最も近代的に錯綜した一社会現象として現れている事変の局部に傍観的な記録者として近づいたとしても、その全局面を歴史の上に把握出来ないのはもとより、感情としても決してそこに生き戦い死しつつある人間