轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

とけい

時計

宮本 百合子

「ペン」1937(昭和12)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,956 字 · 8 页

青空文庫

私が女学校を出た年の秋ごろであったと思う。父が私に一つ時計を買ってくれた。生れてはじめての時計であった。ウォルサムの銀の片側でその時分腕時計というのはなかったから円くて平たい小型の懐中時計である。私は、それに黒いリボンをつけ、大変大切に愛してもっていた。袴をはいたときは、袴の紐にその黒いリボンをからみつけて。

或る日、急に八重洲町の事務所にいる父に会わなければならない用が出来た。どういう道順であったか、上野の山下へ出た。そこで自働電話を父へかけた。何時までならいると父が云ったので、私は、黒リボンを帯留めにくくりつけるひまのなかった例の時計を電話機の前の棚のところへ出してのせ、それを眺めながら、だって父様すこし無理よ、十五分のばしてよ。などかけあった。

自働電話を出て、少し行った時、私は俄に額際から汗の滲み出すような気持になり、殆ど駈けて、今出て来た自働電話の箱へ戻り、そのままとびこんだ。人は入っていなかった。だが、もうそこの棚には、私の大切な銀時計がない。私は暫くその中に立ったまま首をかしげ、歩き出すことが出来なかった。どんな人がもって行ったか、その人相を想像するよすがもない。