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とけいのないむら

時計のない村

小川 未明

「婦人公論」1921(大正10)年1月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,709 字 · 8 页

青空文庫

町から遠く離れた田舎のことであります。その村には、あまり富んだものがありませんでした。村じゅうで、時計が、たった二つぎりしかなかったのです。

長い間、この村の人々は、時計がなくてすんできました。太陽の上りぐあいを見て、およその時刻をはかりました。けれど、この文明の世の中に、時計を用いなくては話にならぬというので、村の中での金持ちの一人が、町に出たときに、その町の時計屋から、一つの時計を求めたのであります。

その金持ちは、いま、自分はたくさんの金を払って、時計を求めることを心の中で誇りとしました。今日から、村のものたちは、万事の集まりや、約束の時間を、この時計によってしなければならぬと思ったからであります。

「この時計は、狂うようなことはないだろうな。」と、金持ちは、時計屋の番頭にたずねました。

「けっして、狂うようなことはありません。そんなお品ではございません。」と、番頭は答えました。

「それなら、安心だが。」と、金持ちは、ほほえみました。

「この店の時間は、まちがいがないだろうな。」と、金持ちは、またききました。

「けっして、まちがってはいません。標準時に合わせてございます。