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とけいのないむら

時計のない村

小川 未明

「婦人公論」1921(大正10)年1月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,709 字 · 8 页

青空文庫

「そうすれば、どうしたらいいのか。」

「壊れない、いい時計を探してくるよりしかたがない。」

「そんな、いい時計は、どこへいったら見つかるだろうか。」と、乙のほうは、寄ると集まると口々にその話をしたのであります。

乙の金持ちは、

「今年、酒がよく造れたら、遠い町へいって、いい時計を買ってこよう。」といいました。

そうしているうちに、ふと、ある日のこと、甲のほうの時計も壊れてしまったのです。自分たちのほうの時計は、けっして狂うことはないといって、いばっていましたが、ついにその甲のほうの時計も壊れてしまったのです。

「やはり、時計なんかというものはだめだ。すぐに壊れてしまう。信用のできるものでない。」と、一人がいいますと、

「時計があったって、なくたって、この一日には変わりがないじゃないか。」と、他の一人がいいました。

甲のほうでは、乙のほうの時計も壊れてしまったのだから、いまさら、急いで新しい時計を、町へいって求める気にもなりませんでした。

乙のほうでも、甲のほうの時計が壊れたと聞いて、いまさら、町へいって新しい時計を求めるという気持ちが起こりませんでした。

村は、いつしか、時計のなかった昔の状態にかえったのです。