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ばんか

晩夏

堀 辰雄

「婦人公論」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页

青空文庫

森の上には黒姫山が大きく立ちはだかっている。その左手に、やや遠くになって見えるのは戸隠山だろう。ここは、本当に信濃路という感じだ。その三叉になったところには、さっきの掘立小屋のほかに、昔ながらの百姓家が数軒立ち並んで一小部落をなしている。それらの薄ぎたない百姓家は、外人部落なんぞとは何んの交渉も無さそうにいずれもそっちには強情に背中を向けて、昔のまんま黒姫や戸隠の方ばかりを向いている。いかにも一茶のような俳人を生んだ田舎らしい面がまえだ。そういう田舎田舎した部落と、例のハイカラな外人部落とが、一つの木戸ごしに、お互に無頓着そうに背中合わせになっている。そういうところが、私にはなんとも云えず面白かった。

どうやらお天気も当分このまま保ちそうで、薄日が相変らず射したり消えたりしている。私達は暫くその三叉路のところでぐずぐずしていたが、いつまでもそうしていてもしようがないので、東に向う道を歩いて往って見る事にした。なんだかその笹で縁どられた道の感じでは、それが何処かでホテルの裏を通っている道と一しょになっていそうだった。その道を歩いて往くと、すぐ南の方に飯綱山が木の間ごしに穏かな姿を見せ出した。