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くらがりのおとまつ

暗がりの乙松

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,992 字 · 25 页

青空文庫

盗むこっちゃあどうせ酒か博奕に遣っちまう金が、あそこじゃ親娘三人を生かすか殺すかの楔になっている。こんな、こんな酷え業たあ知らなかった」

三次の眼からぽろぽろと涙が落ちた。しかし乙松の梅田屋は眉も動かさない。

「どうかその金を返しておくんねえ」

三次は続けた、「親分も江戸じゃ鼠小僧の二代目とまで云われなすった義賊、まさかこんな金ゃあお取んなさるめえ、どうかその金を」

「馬鹿野郎、つまらねえことを云うな」

梅田屋はせせら笑った、「おいら義賊だ? ふっふふふ、世迷言もいい加減にしろ、世中にゃ泥棒はいるが、『義』の付く泥棒はいねえ、人様の物を盗んで鼻糞ほどの施しをしたって何が義賊だ、泥棒をするやつぁしたくってするんだ、世間の毒虫、人界の芥屑、外道、畜生と相場あ定ってらあ。この乙松あな、吝ったれた施しをして自分の悪事の尻拭いをするような、けちな野郎たあ種が違うんだ」

「それじゃ、いまの金は、返してはおくんなさらねえのか?」

「当りめえよ、盗人が一度懐中へ入れた金だ、手前っちが逆立できりきり舞をしても返すこっちゃあねえ、面あ洗って出直してこい」

野火の三次がぎゅっと唇を噛む。