轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
くらがりのおとまつ
暗がりの乙松
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,992 字 · 25 页
それが三年ほど前からふっつり姿を見せなくなったと思うと、計らずもこんな処で三次の耳に止ったのである。
「それで分った」
三次は頷いた、「乙松も離室を狙っているんだ、それでおれのぬけ出るたんびに邪魔をしやがるに違えねえ。こいつぁ面白えぞ――そう分りゃあこっちも意地だ、まだ駈け出しの三次が、みごと乙松を出抜いてみせようぜ」
にやりと冷笑した野火の三次は、まだ聞えている隣の唄へ、まるで挑みかかるように顎をしゃくると、そのまま離室のほうへ、猫のように忍んで行った。
隣の部屋の唄声がはたとやんだ。
「――馬鹿野郎」
低い含み声が聞える、「とうとうやりゃあがったか、まだ若そうなやつだったが……」
人の立つ気配がして、ぼーっと有明行燈の灯がかき立てられた。そして低く、ぱちりぱちりと何か打つ音がし始める……程なく、離室のほうで突然どたんと凄じい物音、
「泥棒だ――!」
と絶叫するのが聞えた。
「泥棒だ、泥棒だあっ」
しんと寝鎮まった宿の内へ、びん! と響きわたる喚き、騒然とあちこちで客の起出る気配のする廊下を、野火の三次――蒼くなって逃げて来た。
「しまった、しまった」
と夢中で自分の部屋へ入ろうとした。