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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

「まだお早くて材料が準備してございません。少々手間取りますが……お気の毒さまですが……へい……」

私はこのボーイをちょっと憤らしてみたくなった。わざと酔っ払いじみた巻き舌でまくし立ててやった。

「篦棒めえ。十時半が早けあ六時頃は真夜中だろう。露西亜じゃあるめえし……」

「へえ。申訳ござんせん……つい……」

「つい露西亜の真似をしたっていうのか。そんなら何だって表の戸を明けた」

「へえ。これから気を付けます」

「露西亜になれと云うんじゃねえ。第一お前の家はそんなに夜遅くまで繁昌すんのか」

「へえ。お酒を売りますんでつい……」

「つい営業規則を突破するんだろう。二時か三時頃まで……」

「へへっ。お蔭さまで……へへ……」

「何がお蔭さまだ。俺あ初めてだぞ……」

「恐れ入りやす。毎度ごしいきに……」

「そんなに云うんならごしいきにしてやる。飲みに来てやるぞ。女は居ねえのか」

「はい。私くらいのもので……」

「…ぷっ……馬鹿にするな……全く居ねえのか」

「……お気の毒さまで……」

「……そんなら今日は珈琲だけだ。濃いんだぞ……」

「畏こまりやした」

と云うなり頭を一つ下げてボーイは飛んで降りたが、間もなく下の方で二三人哄と笑う声がした。