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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

誰が珈琲に毒を入れたか。岩形氏が鍵をかけておいた扉を誰が開いたか。

そもそも何の目的で殺したか。

私は最前ボーイが話した、朝鮮人らしい留学生を疑ってみた。岩形氏が註文した珈琲を、自分のものだと云いがかりを附けながら、その拍子に多分丸薬と思われる毒薬を投込んだものに違いないとは思ったが、そんなものがホテルに来た形跡は少しもないし、所持品も紛失したものがないようだから結局殺した目的はわからない事になる。よしんば、その不明の目的のために岩形氏を殺したとしても、その手がかりになる留学生は、唯、顔に痘痕があるというだけで、探し出すにしても雲を掴むような苦心をしなければならぬ。早稲田の帽子を冠っていたと云うけれども、そんな奴の冠る帽子が当になった例は先ずない。

最後に私は最前のボーイの話の中にあった岩形氏の言葉を思い出した。

……永遠に酔い、永遠に眠る……。

……「自殺」という考えが私の頭の中に閃めいた。けれども自殺とすれば何という奇妙な自殺法であろう。遺書一本残さずに、泥だらけの手で毒薬を注射して、上着と外套を後から着て、横向きに寝て、眼を一ぱいにあけて、開いたままの窓の方を睨んでいる自殺者は、永年変死人を扱い付けている私も、聞いた事すらない。