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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
その先は湯殿と、便所と物置で、隣境いの黒板塀との間に金盞花が植えてある。
私は慌てて押入を開けてみた。鼠の糞もない。その床板を全部検めてみたが一枚残らず釘付になっている。
私は裏口へ飛び出してみた。庭は四方行き詰まりで新しい箒目が並んで靴痕も何もない。
「逃げたな」
という言葉が口を衝いて出た。そうしてそのまま表の説教場に引返すと、そのまん中の椅子の間に書記を連れた熱海検事が茫然と突立っていたが、私を見ると恭しく帽子を脱いだ。
「どうも遅くなりまして……自動車の力が弱くて五番町の坂を登り得ませんでしたので……犯人は挙がりましたか」
私は無言のまま頭を左右に振った。それを見ると熱海検事は同氏特有の憂鬱な眼付きをして、森閑とした室の中を見まわしてから又私の顔を見た。志免警部を入れた四名の警官が煙のように消えてしまったのである。
二三秒の間三人は、薄暗い教会堂のまん中で、色硝子の光線を浴びながら、青い顔を見合わせたまま立っていた。
するとこの時、どこからともなくガソリンの臭いがして来た。熱海氏も気が付いたと見えてキョロキョロとそこいらを見まわしていたが、やがて「アッ」