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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
ですからその夜に入りまして、介抱しておりました樫尾が立ち去るのを待ちかねまして、くるめく心を取り直しつつ、カフェー・ユートピアに夫を呼び出し、樫尾の物語を打ち明けまして、J・I・Cの真相を妾に洩らさなかった夫の無情を怨みました。
ところが夫は別に驚く様子もなくこう答えました。
「お前にJ・I・Cの秘密を知らせなかったのは別に深い理由があったからでない。お前を裏切らせると嬢次の生命が危なくなるから、裏切るなら俺一人で裏切りたいと思っていたからなのだ。いずれにしてもお前の事は狭山という人によく頼んでおくから、安心して日本に居れ。J・I・Cが総がかりで来ても、又は樫尾の智恵を百倍にしても、あの人の一睨みには敵わない。お前は狭山さんを知っているだろう」
と申しましたから、お顔だけは新聞紙上でよく存じている旨を答えましたところ、
「それならばいよいよ好都合だ。俺の事は決して心配しなくともよい。現に一昨日の晩も、朝鮮人らしい奴が一人尾行て来たから、有楽町から高架線の横へ引っぱり込んで、汽車が大きな音を立てて来るのを待って振り返りざま、咽喉元を狙って一発放したら、ガードの下の空地に走り込んでぶち倒れた。