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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

「狭山さん。唯一つ遺憾な事がありますね」

「はあ……何ですか」

「お互にその美人の顔を一度も見なかったじゃないですか。ハハハ……」

私は唖然となってその後姿を見送った。

新聞に出ているのは、これだけの事実を切り縮めたものでかなり杜撰なところが多いばかりでなく、事件の核心にはちっとも触れていなかった。すなわち引き続いた翌日の朝刊に岩形圭吾氏の屍体解剖の結果としては、毒殺に使用した薬物の正体が依然として不明なので目下研究中であること……注射は筋肉注射であったこと……左腕の刺青はNK(のぶ子、浩太郎)の二字の組み合わせであったことが辛うじて判明したこと……などが報道してあるだけである。又警視庁の活躍としては、銀行の一件だのカフェー・ユートピアの出来事などは無論書いてある筈がない。ただ私がステーション・ホテルを出てから数時間の間、行方を晦ましていた事、刑事が八方に飛んで、借着屋を調べた事なぞを書いておしまいに……、

「午後二時に至り刑事課は有力なる証跡を挙げ得たるものの如く俄かに色めき立ち、熱海検事、狭山課長等合計七名の一行は二台の自動車に分乗し、麹町方面に向いたるが、該自動車が犯人の潜伏せる麹町区土手三番町旧浸礼教会に到着したる時は、犯人は既に一台の高速力の自動車にて逃走せし跡にて、一同は手を空しくして帰来せり。