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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
「……どうって訳はないんですけど……あの時の死状が、新聞に書いてある通りだと、何だか変テコでしようがなかったもんですから、何かしら父の死状には秘密があるのじゃないかしらんと思ってそうしてみたんです。窓を開け放しにしておいて、寝台の上に南を枕に西向きに寝て、眼を一ぱいに開いて窓の外を見たのです。……そうしたら……」
「そうしたら……」
「そうしたら、どうやら訳がわかって来たような気がしたんです」
「……どんな訳……」
「あの窓から普通の姿勢で眺めますと、宮城と海上ビルデングと、今、バード・ストーン一座が興行をしている草ッ原が見えます」
「……見える……」
「……けれども父が死んだ時の通りにして見ますと、そんなものが窓の下に隠れて、一つも見えなくなります。ただ青い空と、それから駅の前の広ッ場の真中にたった一本突立っている高い高い木の梢がほんのちょっぴり見えるだけなんです。何の樹かわかりませんけども……」
「……………」
「その時に僕は思い出したんです。この新聞記事によりますと、父は自分で襯衣を切り破って、毒薬を注射して、あとから外套を着て靴を穿いて寝たに違いないのですが、その両方の掌と、外套の袖口と、靴と膝の処が泥だらけになっていたと書いてあるでしょう」