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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
彼は酒を飲まず、煙草を用いず、語学は元来不得手の方で、仏、伊の二箇国語を心得ておりますが、日、支、朝鮮、印度方面の東洋語は全然通じませぬ。近頃日本語の研究を初めておるとの事ですが、まだ日常の挨拶程度だそうで、平生語学の達者なものを秘書にして用を弁じておりますので日本文字なぞも無論読めません。……にも拘わらず彼は極度の好色漢でありまして、この方面に独特の怪手腕を持っており、言語の通じないままに各人種の情婦を持っておるのみならず、如何なる良家の夫人、令嬢でも、一度狙ったら最後、必ず自家薬籠中のものとして終う手腕に至っては団員の斉しく舌を巻いておるところであります。
その他の特徴としては射撃の名手であると同時に、拳闘の重体量選手となったことがあります。殊にその精力の絶倫さは想像を超越したものがありますので、一日平均四時間の睡眠を摂るのみ。二昼夜の間に百余哩を徒走した事があると聞いております。その部下は大抵露西亜人、猶太人、支那人、印度人、伊太利人、その他、ケンタッキー、アルカンサス等の南部亜米利加人で日本人は極く少数しか居りません。いずれも、欧米各地で持てあまされた、警察なぞを物とも思わぬ無鉄砲者の中から、世間を欺くに足る相当の技術を持った者という難かしい条件で、金に飽かして選り集めたもので、彼は巧みにこれを