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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

「ありがとうございます。何卒それでは馬に薬を飲ませる仕事だけをお願い致します。馬さえ騒ぎ出せば、あとは私の方が勝手を知っておりますから仕事がしよいと思います。私は新宿から自動車で日蔭町へ行って、馬好きの学生か何かに化けて行くつもりですから……本当にお蔭で助かります」

そう云った時の嬉しそうな子供子供しい眼付きと言葉は今でもありありと私の眼に残っている。それから私は少年を送り出すと、直ぐに変装をして家を飛び出して、警視庁へ来て志免警視に面会して、

「近いうちに大仕事があるかも知れないから腹構えをしておくように……」

と云い棄ててここへ来たので、後から思えばこの時の私は、嬢次少年を信用していたというよりも、寧ろその姿の美しさと、心根の真実さと、頭脳の明晰さに酔わされていたものと評すべきであろう。

折から又一しきり場内でゲラゲラという笑い声がどよめいた。時計を出して見るとキッチリ三時十分である。今から約二十分の後――三時半前後には騒ぎが初まるのだ。私はズラリと並んだ馬の顔を一渡り見まわすと直ぐに亜鉛塀を飛び出して、表の入口に来て、今度は切符を見せて無事に場内の特等席に帰った。