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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
私は無言のまま、死力を尽して羽がい締めから脱け出そうとしたが無効であった。私の力量は庁内でも有名なもので、狭山は鉄の棒を曲げるとまで云われていた。鬼という綽名も一つはそうした意味で附けられたのであるが、このハドルスキーの金剛力には遠く及ばなかった。彼は籐椅子を一つ抱える位の力で私を締め上げている事が、明かに私の背中に感じられた。そうして自信のある柔道の手を施す術もないうちに私の両肩は、巨大な噛締機にかかったように痺れ上って、抵抗する力もなくなってしまったばかりでなく、肋骨がメリメリと音を立てて千切れて行くような……今にも肺臓が引き裂かれて、呼吸が止まりそうな大苦痛を感じ初めたのであった。
……死ぬのだ……俺は殺されるのだ……楽屋に連れて行かれて……。
……そうした絶望的な予感が二三度頭の中に閃めいて、私の抵抗力を無理に振い起させた。私はただ力なく藻掻きまわった。
……突然……大砲を連発するような響きが楽屋の方に起った。それと一緒に狂わしい馬の嘶きと、助けを呼ぶ外国人の声とが乱れて聞えた。馬が狂い出して厩の羽目板を蹴っているのだ。
その音を聞くと私は気の抜けた風船玉のようにぐったりとなった。