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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

の電報を米本国に打った者が一人も居ない。同時に一本の手紙を出した形跡すら発見されないという事実ばかりは、私の注意を惹かない訳に行かなかった。

この事実は一面から見ると彼等が米本国に家庭を持たない証拠である……彼等が一人残らず、一種の無頼漢、もしくは国際ゴロの集団である事を証拠立て得る可能性のある事実と認められるのであるが、もし又、そうでないとすれば、彼等は何等かの理由で表面上、本国との信書の往復を禁ぜられているものと見なければならぬ。すなわちその信書の表記や内容に依って、何等かの秘密が漏洩しそうな虞れを抱いている一種の秘密団体とも見られる訳で、いずれにしても尋常一様の曲馬団とは思えない。……のみならず特に私の注意を高潮させたのは、彼等の中でも兄い株らしい、カヌヌ・スタチオと称する伊太利人が、今月の中頃に目下太平洋上を航行中の巨船オリノコ丸の乗客、バード・ストーン団長に宛てて打った無線電報が、奇怪にも曲馬団の交渉報告等に不必要な暗号電報で、しかも国際文書に髣髴とした非常な長文電報である事を確かめた一事であった。

これだけの事実を握ると私は俄然として一道の緊張味を感じない訳に行かなかった。