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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
心を掻き乱され、引き付けられるものである。けれども彼女は何等の感動をも受けた模様はなかった。最初の通りの固くるしい姿勢に返って、膝の上のハンカチを凝視ているきりであった。
この体を見ていたストーン氏は、やがて駄目だという風に椅子に背を凭たして、残り惜しそうに女を見つつ、そっと眼を閉じて眉を寄せた。
その時にストーン氏の背後にかかっている柱時計が余韻の深い幽玄な音を立てて、ゆっくりと時を報じ初めた……一ツ……二ツ……三ツ……四ツ……五ツ……六ツ……七ツ……。
……八ツの音を聞くとストーン氏は驚いたように眼を挙げて時計を見た。そうして少し慌てたように胴着から太い白金の懐中時計を出して見たが、落ち着いてそれを仕舞い込んで、最初の礼儀正しい紳士の態度に帰りつつ口を啓いた。
「……お嬢様……私はもう帰らなければなりません。けれどもまだ一つ、貴女にお尋ねしたい事があります」
「はい。何なりと……」
女の返事は何だか男のように響いた程、明晰であった。屹と顔を上げて相手を見た。ストーン氏はその顔をしげしげと見ていたが、やがて、事務的な……しかし極めて丁寧な口調で問うた。