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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
と苦悩のために一呼吸毎に白く枯れて行くかと思われた。それでも氏はなおも最後の無我夢中の力を振り絞って、無理に眼を見開いて相手の女を見ようとした。疲れ切ってひくひくと引き釣る腕を引き上げて女を狙おうとした。自分を呪うべく突立っている眼の前の美しい幻影に向って、死物狂いの一発を発射しよう発射しようと努力した。
けれどもその力も全く尽きる時が来た。
氏の全身に残っている生命は一努力毎に弱くなり、一喘ぎ毎に稀薄くなって行った。恰も室内に籠っている煙がいつの間にか消え失せてしまうように、殆んどあるかないか判らぬ位になってしまった。ぐったりと垂れ下った手の指から拳銃は、おのずと抜け落ちて、床の上に音を立てた。その肩は落ち、腰は砕けて、よろよろとよろめいて室の隅にたおれかかって、斜にずるずると半分ばかり傾いて、頭をがっくりとうなだれると、支那産の絨毯の上に手と足を投げ出したまま、森閑と動かなくなった。その顔面の筋肉は蝋のように垂れ下って、力なく伏せた瞼の下の青い眼はどこを見ているのかわからぬように、どんよりと白茶気てしまった。死の影は全くゴンクール氏を蔽うてしまった。