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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
唯、白い指に捧げられた美しい液体……真紅の毒薬……。すべてのものはその周囲に立ち並んで、自分自身の無力をそれぞれに証明しつつ、その毒薬の威厳を嘆美し、真紅の光明を礼讃するに過ぎないかのように見えた。
ジリッ……と時計が鳴った。……最後の時が迫った。……軽い痙攣が男の横顔を蜥蜴のように掠めた。
九時…………。
……私は見ていなかった。反射的に眼を閉じたから……ただ洋盃が絨氈の上に落ちる音を聞いた。何物かに当ってピンと割れる響を聞いた。さらさらという絹摺れの音を耳にした。そうしてその瞬間に吾れにもあらず眼を開いた時に、女は丸卓子から離れて弓のように仰け反っていた。口の中の液体を吐き出すまいとするかのように空を仰いだ顔にハンカチを当てて、その上から両手でしっかりと押えていた。そのハンカチの下から軽い、微かな叫び声が断続して洩れ出した。しかしそれはほんの一秒か二秒の間であった。忽ちよろよろと後方によろめいた瞬間に頭髪の中から眼も眩むばかりのダイヤのスペクトル光が輝き出たが、それもほんの一刹那の事であった。
と肘掛椅子の中に沈み込んで、顔から両手を離すとそのままぐったりと横に崩れ傾いた。