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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
その時に女はうっすりと眼を見開いて私の足下を見たようであったが、その眼をそろそろと上げて私の顔を一眼見ると、忽ちその眼を大きく見開いた。
「……あっ……」
と叫んで椅子から跳ね起きて、颯と頬を染めながら私を突き除けて逃げ出そうとした。その右手を私は無手と捕えた。
女は袖で顔を蔽うたまま、二三度振り切って逃げよう逃げようと藻掻いたが無駄であった。私の右手の指は、鋼鉄の輪のように女の右手を締め付けているために、化粧をした手首から爪の先が、見る見る紫色になってしまった。
私は励声一番……、
「何者だ。名を云え」
と大喝した。
この時の女の驚き方は又意外であった。……はっ……と立ち竦んだまま眼をまん丸にして、私の顔を穴のあく程見たが、返事が咽喉に詰まって出ないらしく、只呆れに呆れている体であった。
私はこの時初めて女の顔を真正面から十分に見る事が出来た。百燭の光明に真向きに照らし出された顔は、よく見れば見る程、又とない美しさであった。ことにその稍釣り気味になった眼元の清しさ……正に日本少女の生ッ粋のきりりとした精神美を遺憾なく発揮した美しさであった。私は一瞬間恍惚とならざるを得なかった。