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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
という二年前の変名が使ってあった。
二人はそのままもう一度無言の裡に眼と眼を見交した。その樫尾大尉の艱難に鍛い上げた皮膚の色と、鉄石の如き意志を輝かす黒い瞳を正視した瞬間に、私はすべてを察してしまった。
……この本名の判らない男こそ真個の「暗黒公使」である……大和民族の危機を救うべく、世界を跨にかけて活躍奮闘している孤独のダーク・ミニスターである。……今度の事件のからくりは全部この男の仕事なのだ。……この男は嬢次母子や、かくいう私を犠牲にする位の事は、何とも思わないで自由自在にこき使ったのだ……俺は到底この男には適わない。否々。嬢次母子の気強さにも、志免警視の勇敢さにも俺は到底敵いっこないのだ。
……早く警察界を引退していてよかった……。
……と……。その時に樫尾大尉は、傍のカルロ・ナイン殿下をかえり見て何やら眼くばせをした。殿下は大尉の顔を見て莞爾とうなずかれると、つかつかと私に近寄って、小さな手をさし出された。私は又も文句なしにその手を握らせられた。
「……サヤマ……サン。アリガト。フランス……ノ……チチ……ニ……テガミ……デ……シラセ……マス……」