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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
にして帰って来て、先ず扉によろけかかって、それから右手でノッブを捻じって、室の中によろめき込んだものと察せられる。
私はここまで見届けてから懐中電燈のスウィッチを切ろうとすると、ついうっかりして取り落したが、電燈は大きな音を立てて床の上に転がったまま線が切れもしないで光っている。それを拾い上げようとして腰を屈めかけた私は、志免警部から電話で聞いた報告の中に無い、意外なものを発見したので急に手を引っこめながら左右をかえりみた。傍に立っている二刑事に電燈を指し示して、
「見たまえ」
と云った。
二人の刑事は直ぐに顔をさし寄せて見たが、軽い溜息をしいしい顔を上げて、私と眼くばせをした。その懐中電燈の光線が、鋭い抛物線を描いて、横筋かいに照し出している茶色のリノリウム張りの床の上には、そうと察して見なければ解らない程のウッスリとした、細長い、女の右足の爪先だけの靴痕が印されているのであった。こんな風に電燈を真正面から垂直に照しかけても見えないものが、真横から水平に近く照しかけると見え出して来るという事実は、実につまらない偶然の事ではあるが、私にとっては初めての経験で、この際としては特に貴重な発見でなければならなかった。