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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

その事情はやはりこのホテルの会計方の一人で宇田川という男が東洋銀行員の一人と懇意なために、ボーイ仲間の二三人に洩れたものらしい。

それから岩形氏がこのホテルへ来たのは、ちょうど東洋銀行へ金を預け入れた日と同じ日らしかったが、印度貿易商と名乗りながらこれという仕事もないらしく、荷物でも皆無といっていい新しいトランク一つと、やはり新しいスートケース一個で、訪問客も、手紙も来ず、電話一つ掛って来ない。おまけにいつも外出勝ちで、朝飯のほかは昼も晩もホテルで喰う事は稀であった。のみならず帰って来るのはいつも夜の十時過ぎで、しかもベロベロに酔っている事が多かった。しかしボーイやホテルに対する仕打ちは慣れたもので、金遣いも綺麗だったから誰も怪しむ者はなく、蔭では皆十四番の黒さんと云いながら、表面では普通よりもすこし丁寧な扱いをしていた。ただ一度帳場の誰かが、

「十四番の黒さんは毎晩几帳面に帰って来るから可笑しいじゃねえか」

と云い出した事がある。すると又誰かが、

「全くなあ。それに手紙が一本も来ねえお客も珍らしいぜ」

と云い足した。けれどもその時にボーイ頭の折井がちょうど来合わせて、