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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
オーイオーイと呼ぶ人間の声も聞えた。太陽が明るくなり、又暗くなった。朝風がそよそよ窓から入って来て私の持っているハンカチを弄んだ。その間じゅう私は、自分の眼の前にぶら下っている一尺四方ばかりの白いハンカチの中から順々に現われて来る怪現象に見惚れて、身動き一つ出来なくなっていた。
珈琲の汚染は殆んど全部に亘っていて、汚れていない処は右上の角の一部分しかない。そこ、ここに、ポケットの内側の変色した部分と同じ色の淡い汚染が、両端の尖った波の形をして散らばっている……その中に、巻煙草の粉の形をした小さな短冊型が薄青く輝きながら、群をなして現われて来た。それからその真中あたりに、茶色にぼやけた半円形が二つ半? ばかり辛うじて見えて来たのは指を拭いた痕跡らしく、大方脂肪分が変色したものであろうと考えられる。そのほか極めて淡い雲のような汚染の形が処々に見えるが、何の痕跡だか推定出来ない。
そんなものを一渡り見まわした私は、最後に、右上の端の珈琲の汚染の附いていない処に眼を注いだ。そこには極めて鮮麗な紫色がかすれたようになって附着しているが、その色が珈琲の汚染になった処に這入ると急に流れ拡がって、淡い緑色に流れ出している。