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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

……ここで初めてこの女に着物を着せる事が出来る。服は勿論洋服で、腰をずっと低くしている割に足の踏み拡げ方が狭く、且つ両方とも爪先ばかりで屈んでいるところを見ると、それは二三年前に流行った裾の開きの極めて狭い袴で、足の位置が割合に扉から離れているのは、現在大流行をしている固いコツコツした、鍔の広い帽子を冠っているためである。その帽子の色は、ボーイの云う通り服の色が黒だったとすれば、黒か藍かの二つの色が一番よく調和する訳で、それ以外の色では十中八九あり得まいと思う。

……なお、この二三年程流行遅れの、質素な黒い洋服をハッキリと思わせる条件がいくつもある。銀行の支配人の言葉によって……これは私だけが聞いた事であるが……その女が、あまり白粉をつけた事がないらしいということ……日本服がよく落着いていなかったという事。紫インキで『タイプライターを扱う女』という事実が推定されること……なぞ……そんな事実を綜合するとこの女は平生洋服を着慣れている……事によるとタイピストかも知れぬと思われる程度の職業婦人である。そうとすれば汚れの着き難い服の色といい好みといい、丁度その職業にシックリと適当るものである。