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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

きょうだいが別れ別れになったり、裸で街へ放りだされた者が、どのくらいあるか親方は知っちゃあいめえ、それだけじゃあねえ、あいつに金が返せねえために、あいつの長屋で首を吊った婆さんがあった、久松町では大川へ身投げをしたかみさんがいる、ついこのあいだも、あいつの長屋で娘が一人、身を売られるのがいやさに井戸へとび込んで死んだ、……おれの知っているだけでも、あいつのために三人の人間が死んでるんだ、刃物こそ使わねえが、あいつは三人も人を殺してるんだ、あいつこそ人殺しだ」

「それがおめえとなんの関係がある」男が云った、「油屋がもしそんな非道なことをしたんなら、された当人がお上へ訴えて出ればいいんだ、おめえなんぞの知ったことじゃあねえんだ」

「当人に訴えて出ろって」

「そのためにお上というものがあるんだ、しんじつ仁兵衛が悪人ならお上で放っておきゃあしねえ」

「だって爺いは放っておかれたぜ」

「それは油屋が御定法に触れなかったからよ、法に触れるようなことをしねえのに、ただ強欲というだけで繩をかけるわけにはいかねえ」

「そうらしい、そういうものらしい」

三之助の唇が少しあいて、それが見えるほどもふるえた。