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きょくばだんの「トッテンカン」
曲馬団の「トッテンカン」
下村 千秋
「赤い鳥」赤い鳥社、1928(昭和3)年9~11月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 16,620 字 · 34 页
新吉は見物したくてたまらないのですが、そうは出来ません。十幾頭という馬のかいばをつくらねばなりません。何十種という動物の食べものをつくらねばなりません。それから、小屋の裏手の小さなテントの中で、何十人という曲馬団員の御飯のしたくをしなければなりません。これらの受け持ちの人は外に幾人もいましたが、その人たちは道具方の男で、みんな意地悪の横着ものばかりでした。だから新吉は、それ、水をくんで来い、それ、お米をとげ、それ、じゃがいもの皮をむけ、それ、たくあんを買って来いと、次から次へ目のまわるほどこき使われるのでした。
けれど新吉は、一生けんめい働きます。どんなことでもします。団長へ約束したのですから、いやだなどということはもちろん、ちょっとでもなまけることは出来ません。ですから新吉は、いなかの鍛冶屋にいた時分よりは、もっとまっ黒けになって、朝っから夜まで、その夜も十一時から十二時頃まで働きつづけました。朝の働きはそれほどつらくはなかったが、夜、演技がおわって、見物人がかえって、それから後かたづけをするときのつらさといったらありませんでした。おなかはすき、からだはへとへと、そして頭がおっこちそうに眠い。