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つきかげ

月かげ

豊島 与志雄

「婦人公論」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,867 字 · 14 页

青空文庫

」

「何でもないんなら、したってしなくったって同じじゃありませんか。」

「だからしてごらんよ。頼むから……一度だけでいい。」

彼女達はくすくす笑いながら、ジャンケンをした。三人共気乗りがしないらしく、握ったままの拳をつき出したが、お光一人はぱっと大きく手を開いた。

「あら。」

しまったという顔付で、彼女は彼の顔を見上げたが、彼は何とも云わないで、私の方へ向き直った。

「こんどは私とあなたとしましょう。」

「そうですか。」

そして私は何気なく拳を差出したが、彼の様子を見て喫驚した。彼は如何にも真剣らしく、上目がちにじっと私の顔を覗き込んできた。貝殼のような眼の光が、変に底暗く黝ずんで、白々とした額とぼーっと酒気のさしてる頬とに、変に不気味な対照をなして、私の方を窺ってるのだった。何故に彼がそう真剣になってるのか、私は更に見当がつかなくて、少し慴え気味にもなって、冗談にまぎらそうとした。

「君は何を出すんです。」

彼はそれに答えないで、私の方を一心に見つめていた。その時私は、ジャンケンの勝負は全く気合一つだ、とそんなことを彼の気込みから思い浮べた。が、やはり真剣にはなれなかった。