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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
できるなら、あけみを遠ざけて、股野だけと話したかった。
二階の窓あかりを見ると、急に帰りたくなったが、そしてそのとき帰りさえすれば、あんなことは起らなかったのであろうが、克彦は、折角決心して出かけて来たのだから、一寸のばしにしても仕方がない、ともかく話をつけてしまおうと考えた。そして、薄暗いポーチに立って、ベルを押した。
中からドアをあけたのは、いつもの女中ではなくて、あけみだった。派手な格子縞のスカートに、燃えるような緑色のセーターを着ていた。小柄で、すんなりしていて、三十歳にしては三つ四つも若く見えた。彼女の魅力の短い上唇を、ニッと曲げて微笑したが、目に不安の色がただよっていた。
「姉やはどうしたの?」
「あなたが食事に来ないとわかったものだから、夕方から泊りがけで、うちへ帰らせたの。今夜は二人きりよ」
「彼は二階? いよいよあのことを切り出すつもりかな」
「わからない。でも、正直に云っちゃうほうがいいわ。そして、かたをつけるのよ」
「ウン、僕もそう思う」
せまいホールにはいると、階段の上に股野がたちはだかって、こちらを見おろしていた。
「やあ、おそくなって」