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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
だが、平気で応対するということが、人間である克彦には恐ろしく困難であった。それは神と闘うことであった。
「それで、明智さんは、どんなふうに考えておられるのですか」
彼はごく自然な――と自分では信じている――微笑を浮かべて、さりげなく訊ねた。
「この犯罪は手掛りが皆無のようだから、物質的証拠ではどうにもなるまいという意見です。心理的捜査のほかはないだろうという意見です」
「で、その相手は?」
「それはたくさんありますよ。一応白くなった連中が全部相手です。とても僕一人の力には及びません。ほかに二人の課のものが、これにかかりきっていますが、心理捜査なんて、全く慣れていませんからね。むずかしい仕事ですよ」
「警視庁も、次々と大犯罪が起っているので、忙しいでしょうしね」
「忙しいです。今の人員ではとてもさばききれません。しかし、迷宮入りの事件については、われわれは執念深いのです。全員を動かすことはできませんが、ごく一部のものが、執拗に何本かの筋を、日夜追及しています。われわれの字引きには『諦め』という言葉がないのですよ」
(そうかなあ。そうだとすれば、日本の警視庁も見上げたもんだな。